漂流物のランプ
ヨーガン レールの最後の仕事
On the Beachを振り返る
ちょうど10年前の今日、東京都現代美術館にてヨーガン レールさんが、石垣島の自宅近くの海辺に流れ着いたプラスチックの漂流物でつくりだしたランプが展示された。私にとってはとても大きく、生涯心に残る出来事だった。このとき、私は照明の構造や技術的な部分で製作協力を行い、仮組みされたプラスチックの作品に光を組み込む作業を担当した。(私の他、作品の一部は都行燈さんが携わっている)
愛犬とビーチに散歩に出かけては漂流物を拾い、一つ一つ洗う。山積みされた様々なプラスチック製品を太陽に透かしては組み合わせる。ヨーガン レールさんは2014年に不慮の事故で亡くなるまで、そんな生活を送っていた。
生前、「これが最後のプロジェクトになる」といっていたのがとても印象に残っている。当時はそれが年齢的な意味での言葉であったと思っていたのだが、その真意は生涯をかけてこの創作に取り組む覚悟であり、終わりのない旅路を思い描いていたのかもしれない。
”On the Beach"という活動から何を受け取るべきだったのか?漂流物のランプのその先の未来について、私たちはどこに向かうのか?
ヨーガン レールさんと言葉を交わしながら、とても近くでその活動を見てきたにも関わらず、恥ずかしいことに未だにその解答を見出せていない自分がいる。
もしメッセージが「自然に還らないプラスチック製品をなくそう」というものであったなら、ヨーガン レールさんの作った作品群はあまりにも美しすぎたし、多くの人々を感動させてしまっていることについて、この「否定すべき存在」についてどうに評価したら良いのかわからないのが正直な気持ちだ。
圧倒的な美の創作によって、人々が環境問題に向き合うきっかけになったのは確かだ。しかしそれを目の当たりにした我々は、「感動した」「素晴らしい展示だった」で終わるのではなく、そこから問題を深く考えるべきであり、受け手として何らかの解答を探し続けることが必要だと感じている。
もしヨーガン レールさんが今も生きていたなら、今もなお美しい照明が生み出され続けていたはずだ。その活動が続いていれば、次のフェーズも見えたのではないか、と思わずにはいられない。今日もどこかの海岸には土に還らないたくさんの漂流物が流れ着いているのだろう。あのセンセーショナルな展示が、人々にとって過去のものとなってしまわないことを心から願う。
ヨーガン レール / Jurgen Lehl 1944-2014
ポーランド生まれのドイツ人であるヨーガン レールは、デザイナーとして日本で活動。自然素材や手作業を重視し、持続可能なものづくりを追求し続けている。デザインは衣料品だけでなく、生活に使う道具や家具まで多岐に渡る。生み出された製品はシンプルでありながらも独特の風合いや美しさがあり、環境への配慮とデザインの再現性を両立させ、世界中から多くの支持を集めている。
Photo 株式会社ヨーガンレール 提供
On the Beachについての動画
On the Beachについての本
引用先:「https://shop.jurgenlehl.jp/category/STATIONERY/J0199EBK14.html」