内田 悠
Dish Stand Lamp
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木工作家
北海道三笠市で工房を構える。材の個性と向き合い成形されたうつわで知られているが、家具の制作もしており、併設されたカフェ兼ギャラリーの内装や家具も彼自身の手によってつくられている
STHLM GLASSについて
2017年に設立され、ストックホルム中心部郊外の旧グスタフスベリ磁器工場跡にあるガラススタジオ。
現在4人のガラス作家の共同作業場として、クラフトからアートピースと多岐に渡るガラス作品が日々生み出されている。
今回のガラス作品もメンバーの共同作業によって制作されている。
木工と一口に言っても、さまざまな加工法が存在し、家具と器では使用される機械や工具がまったく異なる。今回のプレートは、回転するワーク(製作物)にバイトという刃物を押し当てて切削するウッドターニングという技法で作られている。このウッドターニングには木工旋盤が使われ、似たものとして日本の器製作では古くから木工ろくろが活用されてきた。 どちらも主に回転体の形状を作るのに適しているが、簡単に説明すれば、旋盤は製作物を二点で支えることができるため、外側を長い距離で削るのに向いていて、テーブルの脚や道具の柄などを作るのに最適だ。一方、木工ろくろは片側のみを支えるため、お椀の内側を削るのに適している。木工旋盤でもお椀を作ることは可能だが、小ぶりの椀に関してはろくろの方が効率的に仕上げられるかもしれない。内田さんが木工旋盤を選んでいるのは、家具製作を基盤としているため、その選択は自然な流れだろう。 筆者自身も木工旋盤を所有し、製作の経験があるが、漠然とした形を作る点では時間をかければ比較的誰にでも取り組みやすい技法だと感じている。ただ、木は生き物であるため、材の特性を考慮しながら進める見立てが重要で、技術だけでなく材に対する深い知識が求められる。
作家の作品を見ていると、表面の仕上げ方に表現が込められたものを多く見かける。私も時々意識することであるが、材と加工方法によって生まれる独自性のある凹凸を意識するというのは表現の重要な要素の一つであると思う。彫刻制作で耳にする「カービング」と「モデリング」という用語がある。「カービング」は刃物などで削り出した調子を指し、「モデリング」は粘土などの柔らかな素材を加えた調子を意味する。少し雑な例えになってしまうが、木工にはカービングの要素が強く、陶芸にはモデリングの要素が強いイメージを持っている。この部分に向き合い、探求する作家の姿勢には深く共感できる。 内田さんの作品を初めて見た時、妙な違和感を覚えた。形には装飾性がなく、先に述べたように作り手の存在感を感じることができない。例えるなら、精巧なメス型でモールディングされた樹脂のような冷たさを感じた。しかし妙な事にその無機質さが、木という素材の持つ温かさを引き立てている。 彼の作品は私が抱いていた「作家作品」のイメージとは少し異なり、まるでコンテンポラリーアートのようにも、デザインされたプロダクトのようにも感じられる。表現が難しいが、感覚的なアプローチというよりも、引き算を繰り返した論理的な制作スタイルが近いのではないかと思えてくる。それは形そのものにも現れており、リムの細さや、まるでパンの生地を少しだけ凹ませたようなプレートなど、彼の作る器のディテールの至るところで、その材の「滋味深さ」を感じ取ることができる。 内田さんに自分が感じた印象について尋ねたところ、主役は「木」であり、自分自身の個性を消すことで素材の魅力を引き出すことを意識していると教えてくれた。また、「作り手の手痕を残さない」という制約を設けることで、材の魅力に対する厚みや角度といった関係性に深く向き合うことができるとのことだった。その話を聞いて、違和感やディテールが醸し出す雰囲気について、腑に落ちる理解を得たのは言うまでもないだろう。 しかし、私が特に面白いと感じたのは、これまでの「素材」そのものを主役として重視する姿勢から新たな気づきを得たことだ。素材の魅力を引き出す意識は誰しもが持っていると思うが、作り手の存在感を消すことがその実現に繋がるという考えは、何と奥深いものだろう。ものを造る際には、ノイズとなる要素を排除していく過程を通じて、単純な形状の中に複雑な特性が隠れていることに気づかされる。それは、素材と作り手との関係性を見つめ直すきっかけを与えてくれる。こうした彼の仕事を通じて、「表現とは何か」という問いに対する理解がより深まるのを実感した気がした。
テキスト
Yuu Uchida
+ bowks